●冒険者
行方不明の爺さんが
この村から30キロも離れた果樹園で発見された。
一週間、命は助からなかった。
ところで認知症の方は行くべき目的があり、
驚くほどの距離を歩くと聞いた。
もはやこれは徘徊などというものではなく
冒険だと思った。
徘徊などの名称ではなく、
周りに心配をかける冒険者である。
もう社会生活で必要な余計なことは忘れ捨て去り、
そろそろ本当の世界を冒険したい。
やり残した大きな冒険をしたい。
昔行ったことのある場所にもう一度行きたい。
その美しかった風景をもう一度見たい。
ずっとやりたかったことを最後にしたい。
人生に最後の自由を与えたい。
精神を解放させてあげたい。
どこまでも新鮮な風景を追って歩きたい。
見たこともないような山があるから登りたい。
体の中に流れている水が、
地球から湧き出たばかりの
新鮮な湧き水に
呼ばれているのかもしれない。
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