●機微
「自分の知性が機能していないということを切り札にしている人間を理詰めで落とすことはできない」by 内田樹
最近こういう経験を何度もしたから、なるほどと感心してしまった。何を言っても会話が成立しない人のことだ。例えば「そんなこと言った覚えがない」(確かに言ったのに!)みたいな言い訳と誤魔化しとはぐらかしで会話する。内田氏曰く、このような受け答えを愚者戦略という。
この間の美術館の館長もあの建築家も作家仲間にも近所にもいる。自分の思い込みを信じていて他の考えを了承できない。ほぼ会話が成り立たない。白馬の王子様を待っている同じ思い込みのブス二人の会話なら成り立つだろうけど、所詮思い込みは幻想だ。真理とは真逆だ。
会話とは基本的に聞こうとする姿勢が大切だ。なぜなら今の時点で自分の考えを固定してしまったら未来は閉じることになる。自分の考えの欠点を発見し修正できる柔軟性が必要だ。本を読んでも自分が読むのだから無意識に自分の好みの情報だけ集めてしまう。
社会はある程度賢者によって問題解決し発展してきた。ところが高慢な優しくない賢者が多い。そこで高慢な賢者に謙虚さと反省を促すが謙虚と反省は自我にとっては死ぬほど嫌い。結果、賢者の心の機微は疎くなってしまった。そこに賢者でありながら愚者ぶることができる賢愚合体の天才が現れ、自我のように見える無我を披露する。これによって賢愚の境界がうやむやになり空間は広がった。しかしこれを見た普通の愚者が愚者のままでいいんだと捉え違いし努力を怠り思考停止してしまった。育てるはずだった愚者の心の機微も疎くなってしまった。ところで可愛いげのある愚者はおだてりゃ喜ぶから使いやすいし金にもなる。何かと重宝がられる。そうこうするうちに愚者戦略が得意な愚者が社会のトップにまでなってしまった。とうとうこの社会は心の機微に疎い人だらけになってしまったのだ。危うい状況だ。このような社会は繊細のかけらもない味覚の荒い料理のようなもの、クソ不味い。大した喜びもなければ自由もない。解放もなく、深みもなく、感動もなく、真理にも無知だ。まるで狭いところに閉じ込められ同じ餌を食わされ偽物のビールを飲まされ生きているだけのブロイラー社会、まあ社畜及び奴隷っすね。博打と麻薬をくれーーーと叫ぶ!
このような危機的問題の根っこには『心の機微に疎い』があると思う。機微に疎ければ他人に傷をつけても大きな事件を巻き起こしても理解できない。反省を促されると不愉快なので、そうならないように言い訳と誤魔化しとはぐらかしで身を守る。愚者戦略だ。このままではみんなの心がささくれ立ってしまう。そこで考察。機微に疎いということは心のない虫のようなものだ。虫はちゃんと観察すれば生態がわかる。何かを信じて、何かを欲しがっている。そこがわかれば愚者戦略も紐解けるのではないかと。これからは虫の行動を把握し先を読んで餌で釣って罠でも仕掛ければいいと思う。