●楯岡のサブちゃん
大久保の新宿に飲み屋『もつ平』ができた。大久保だし新宿だし妙な地域だ。店長27歳。神奈川で医学療法士という仕事についていたが辞めてここでもつ屋をやり始めたのだ。なかなかノリの良い店長だった。
もつ平で呑みながら思い出した。ここは四辻の角で、確か僕が高校生のあたりに信号機ができた。
車などほとんど通らない。僕は信号機が赤になったから車も人もいない通りをぼーっと眺めていた。すると楯岡の方から浮浪者の男がやってきた。こんな汚い人を見たのは初めてだった。男は信号機前で立ち止まり、頭を上にあげ、右手の親指と人差し指で、自分の右目の瞼を開けた。そして標識を見た。えーーーーーっ!
楯岡のサブちゃんだ! サブちゃんは頭が良すぎて働くことも風呂に入ることもやめ、目を開けることさえ止めてしまった、しかし新聞とか読みたいので早朝隣の新聞箱から新聞を借りてきて指で目を開け、全て読む。読んだら隣に新聞を返す。伝説の人物だと思っていたが実在してた。周りを圧倒する存在感を持っていた。
サブちゃんは世捨て人だ。世の中はラットレースやどんぐりの背比べ、その土俵を捨てたものが世捨て人だ。土俵の中で自分が上と思っても結局下と比べての上であって、本来の自分は見えていない。下としても同じだ。比較して優劣しているだけ。狭い土俵から出ることで本来の自分を知る。ここが僕の中の何かを刺激したのだと思う。
サブちゃんは僕の本『サ゜スウォスス オブ キャッツ曼荼羅』の中に出てくる50匹の猫の中の1匹だ。名前は『サ゜ヴ』となって『サ』に『⚪︎』がついて破裂音になっている。この物語のタイトルの最初の文字にした。これは狭い土俵から破裂して外に出た者どもの物語だ。こうやって大人になってから本にするのだから、僕にとってサブちゃんはかなり衝撃破裂の人物だったのだろう。
*サ゜スウォスス オブ キャッツ曼荼羅
これは古今東西の神話や伝説・伝承や現代の科学的発見などに想を得て創作した50匹の猫の創世記ドラマ。
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