僕の本名に近い名前で呼ぶ声に、粘土いじりを止めて顔を上げ周りを見る。SSは肩もみ棒で背中を揉む事に集中している。この間の屋根から落ちた痛みが妙みたい。近所の爺婆がそんな名前で呼ぶわけがない。いったい誰が? 耳を澄ます。呼ぶ声は部屋でもなく外でもない僕の意識の奥深くから聞こえてきていた。ハッ! として立ち上がりアトリエの外に出る。雪の中に猫のイゴがいた。
イゴはいつもアトリエの扉から外に出て、家の壁に沿いながら庭を見回り、30メートル弱先の台所の猫ドアから入ってくる。生憎、今日は吹雪で途中で立ち往生してしまったようだ。寒さの中で泣いたのだろうが声は家の中まで届かない。不思議なものだ。イゴの魂の叫びと僕の意識の深いところは繋がっていたのだ。そこはイゴにとっても僕にとっても同じ宇宙の中心なんだろうね。
しかしイゴが僕の事を「かじとさん」と呼んでいたとは、、知らなかった。
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