2020年2月13日木曜日

[6986] キンタマ

●キンタマ
サウナに入り、水風呂に入り、それから風呂場に座って壁にもたれる。ぼーっとしていたら目の前を爺さんが通った。あれ! 爺さんの右脇の後ろに3センチほどの玉が2つぶら下がっている。まるで子供のキンタマだ。体との繋ぎは3ミリぐらいの紐状の皮膚で、何かに引っ掛かったらすぐにも取れそうな感じだ。ふとうちの猫のイゴを思い出した。イゴのしっぽはカギしっぽでたまに何かに引っかかり痛くて大声で叫ぶ。不便なしっぽなのに縁起のいいしっぽと言われている。多分マイナスな見た目を擁護するためにプラス思考の縁起をつけて差別を無化したのだろう。こういう縁起が平気で広がるということは、人間は根本的に、差別は幻想で無意味だということを知っているのだろう。そこで爺さんの小キンタマだけど、これも引っ掛かったら痛いのだろうか? 神経はあるのだろうか? なんもなさそうな感じがする。やはり爺さんも縁起がいいとして取らないことにしたのだろう。この爺さんも若い頃は、小キンタマを女性に見せて楽しんだに違いない。なにせ脇毛のすぐそばにある小キンタマだからイヤらしい。女性たちはキャーとか言いながら、触っていい? と想像と感触の違いに驚いたり楽しんだり興奮したことだろう。爺さんはなおのこと切り取ることはしなくなった。今は孫に触らせて喜んでいるに違いない。
 爺さんは風呂から上がり家に帰った。「おじいちゃん、キンタマ触らせて!」と孫が懐いてくる。「ちょっと待ってな」と服を脱ぎ「ほら!」と見せたが、孫が「? ないよ」と言う。その頃、温泉の風呂場では、床に落ちている小キンタマの周りに人々が集まっていた。少し血が滲んでいるのでこれはおもちゃではない。事件だ! するとキンタマがピクッと動いた。そして歩き始めた。たぶん持ち主のもとに帰ろうとしているのだろう! なんと甲斐甲斐しい情景ではないか! それを見た爺さんたちが我が事のように「がんばれ! キンタマ!」と叫び始めた。
 ‥…キンタマじゃないのに。

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