●能
昔々、「能」という名前のおじいちゃんがいた。
おじいちゃんは朝食後、しばらくしてから家を出る。かなりゆっくり歩いて山に向かった。
家にいる若者たちは職場に出かけた。彼らはそれぞれの職場で午前の仕事を終え、昼飯を食い、同僚と少し世間話をし、大笑いし、午後の仕事をやって、家路に向かった。
空が夕焼けで赤く染まり、ねぐらに帰ろうと鳥が鳴いていた。若者が家の近くに来た時、山に沈む夕日に照らさ長い影を引いたおじいちゃんがゆっくり歩いていた。朝からいっ時も止まらずに歩いていた。8時間かけて歩いた距離は500メートルちょっとだろう。
そろそろ日も暮れる。カラスが鳴いたその瞬間、おじいちゃんは歩行を止めた。そして歩行よりやや早い動きで方向転換をした。おじいちゃんは家の方をじっと見つめ、ゆっくりと深呼吸をし、上半身を揺らさず、まるで動いてなどいないように、滑るように、流れるように、すり足で、すすすすっと家に戻った。
(スローな日々なもんで、能が過ぎったのさ)
(スローな日々なもんで、能が過ぎったのさ)
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