絵を描くとは、無地のキャンバスに線や色をつけて図を描くことである。昔の絵描きたちは何も描かれていない『地』と、何かを描いた『図』の関係に興味を抱いた。『地』と『図』の関係を人間に当てはめると、『地』は生まれつきの性格や本性のことを言い、『図』とは備わった知識、経歴、地位、権威など本性を覆う衣装のようなものだ。人は『地』のままでずいぶん美しいのだが、この社会では『図』を纏って生きなければならない。そこで人は『図』の上に『図』をと、どんどん装飾を加えつづけた。いつの間にか『地』が隠れ『図』が『地』の台頭であると勘違いするようになった。今は本当の『地』の魅力を見失いつつある。
このような『図』の上に『図』を塗り重ねる方向を『プラス』とする。夜に厚化粧と装飾に身を包み酩酊し、朝に深い眠りについたのでは『地』が見えない。舞台上の建物がいくらそれらしくリアルに描かれても、やはり数日限りのハリボテで骨(地)はない。これではますます『地』が蔑ろにされてゆく。
そこで重要なポイントが『図』のこれ以上の『プラス』ではなく、反対の『マイナス』だ。『プラス』の過剰に気付き『マイナス』に移行して『ゼロ(透明・無我)』に向かう。これら一連の行為が伴う感覚をいいセンスと言う。これはプラス・プラスと膨らむ方向ではないので、逆転の発想でもある。このセンスで絵を描くことで、『地』と『図』のバランスが保てる。いいセンスとはこの落ち着いたバランスで、いくら興奮しても、いくら青ざめても整う呼吸法みたいなものだ。静かに吐いてー、吸ってー‥‥
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